ガイド2
ネイチャーガイド(October Deer 代表)・
浅間山麓国際自然学校 インタープリター
「地元ガイドがおすすめする浅間山の楽しみ方」第2弾は、浅間山界隈No.1ガイドとの呼び声も高い、ネイチャーガイドの杉山隆さんです。
杉山さんは1985年に埼玉県長瀞町で生まれました。高校生の時に山形県でのカモシカ調査に同行したことをきっかけに、カモシカへの興味が芽生えます。新潟県妙高にある「国際自然環境アウトドア専門学校」に第一期生として入学し、卒業後は「NPO法人浅間山麓国際自然学校」に勤務。2016年に独立し、現在は長野県茅野市を拠点として、浅間山麓国際自然学校のインタープリター(*1)としてだけでなく、日本全国を飛び回りながらネイチャーガイドファシリテーター、講師として活躍しています。
生き物全般が大好きで、ガイド中もついつい哺乳類や鳥類、昆虫などの話が多くなるのだとか。そんな杉山さんに、野生動物を入り口に浅間山の魅力をたっぷり語っていただきました。
(*1)インタープリター=英語で「通訳者」の意味。「先導」や「道案内」の意味合いが強いガイドと異なり、自然の発するメッセージを分かりやすく解説し、自然とのふれあいを通してその喜びをシェアすることに力点がある。
数々の山を見て登ってきた杉山さんは「黒斑山はいい山です」と言い切ります。黒斑山は浅間山の外輪山で、山頂からは浅間山を間近に見ることができます。理由を尋ねると、「カモシカがたくさん棲んでいるんですよ!黒斑山だけでなく、浅間山麓全体に言えることですけど」と満面の笑みを浮かべました。
そう、浅間山周辺は国の特別天然記念物二ホンカモシカをはじめ、野生動物の宝庫。とはいえ高地なので種類が多いわけではなく、見るべきポイントは「人の手が入っていない豊かな自然」の中で暮らす野生動物たちの自然な姿です。「カモシカ以外に、キツネ、ウサギ、テン、二ホンリスがいます。あと、運が良ければオコジョに出会えることもありますよ」(杉山さん)。
浅間山の登山口(*2)がある高峰高原は2000メートルを超える高地ですが、アクセスが非常に良いのが特筆すべき点。自分の足で登山するのは難しいという方でも、誰もが高地の爽快感を味わえるのです。ビジターセンターやカフェ、温泉やホテルなどの施設もあるので、登山目的でない方でも楽しめます。そして、ここから2時間登れば(標高差430メートル)黒斑山の山頂にたどり着き、切り立った崖の向こうに浅間山の大パノラマが。「2時間であの風景に出会える場所はなかなかないですよ」(杉山さん)。
杉山さんは浅間山麓でネイチャーガイドとしてデビューし、今までいちばん多く登ったのも黒斑山。その思い入れを差し引いても、いい山だと言います。
(*2)登山口=車坂峠口を登山口とする「黒斑コース」
黒斑山頂上から見た浅間山は、ご覧の通りの絶景。写真のように、初冬には黒い山肌に雪を薄く被った“ガトーショコラ”と呼ばれる姿が見られる
浅間山周辺に生息するオコジョ。運がよければ会えるかも!?
高峰高原から黒斑山をはじめとする外輪山、そして浅間山はむしろ冬のネイチャーツアーのほうが多いのだとか。雪が積もれば、スノーシューで歩いたり、野生動物の足跡を見つける「アニマル・トラッキング」を楽しんだりできます。雪の上だと足跡がはっきりわかるので、野生動物を知るならむしろ冬のほうが好都合。足跡だけで動物の種類はもちろん、どういう行動をしているのかまで読み解けます。
コレクションのひとつであるテンの毛皮をおもむろにザックから取り出す杉山さん。参加者は驚きの声を上げる
「ネイチャーガイドは大別すると植物系と動物系に分かれるんですが、どちらかというと動物系は少ないんですよ。でも、動物はインパクトがあるし、切り口も多彩で深掘りもできる。単純に僕が生き物好きということもあるんですが、野生動物を軸としたガイドは僕の強みですね」(杉山さん)。
母校の国際自然環境アウトドア専門学校でも、哺乳類を中心とした野生動物の講義をしている杉山さん。解剖までやるというから、本格的です。その杉山さんが野生動物のガイドで使うとっておきのアイテムが、動物の頭骨と毛皮。足跡などの野生動物の痕跡を入り口に、本物の頭骨や毛皮を使って、その動物の生態を解き明かしていきます。頭骨と毛皮が持つ情報量はかなりのもので、肉食か草食か、土の中にいるのか、早く走る動物なのか、嗅覚が発達しているのかなど、いろんなことが読み取れるそうです。
杉山さんは自らを信州No.1頭骨&毛皮ガイドと称し、すでに30~40種ほど手元にあるのだとか。1枚目の写真で杉山さんが肩に掛けているのは、浅間山麓にずっと暮らし老衰で亡くなったカモシカの毛皮。杉山さんの手で毛皮を剥いだそうです。
浅間山麓を知り尽くしている杉山さんは、浅間山には一度は登ってほしいと言います。
「特に、地元のこどもたちには強くおすすめします。もし地元を出たとしても、帰ってきた時に浅間山を眺めると『ああ、帰ってきたな』とホッとしますよね。一度でも登ったことがあれば、その気持ちは確実に強まります。
県外の人にも、登ったことがあれば“おらが山”をしっかり自慢できますしね」(杉山さん)。
浅間山麓のカモシカ。杉山さんは、他の人が気づかないようなところでもいち早く発見できるほどよく目撃している。目が“カモシカ・サーチアイ”になっているのかも!?
噴火警戒レベルによっては浅間山自体への登山は難しくなりますが(*3)、高峰高原から外輪山にかけて登りがいのあるピークが複数あるのも浅間山の良さ。加えて、テーマの多さもポイントです。「浅間山はガイドにとっても、火山、動物、植物とテーマのバリエーションが多くてありがたい山なんですよ。花は300種ほどありますから春から夏は植物メインで話ができますし、秋は紅葉、冬は雪と四季を通して楽しめます。お客さんの反応を見ながらいろんな話ができるのは、ガイドしていて楽しいですよ」(杉山さん)。
(*3)浅間山への登山=浅間山は「釜山」と「前掛山」の2つのピークがある。噴火口がある釜山は常時入山禁止。前掛山は噴火警戒レベル1の時だけ登頂できる